『漂う殺人鬼』(ピーター・ラヴゼイ)

 いまやイギリス・ミステリー界の重鎮となったラヴゼイ氏。これは毎回違った趣向で楽しませてくれるダイヤモンド警視シリーズの邦訳最新刊。今回はなんとジェフリー・ディーヴァーばりの"シリアルキラー対ダイアモンド警視"を届けてくれた。

 ビーチで若い女性が絞殺された。捜査が進んでも彼女の正体がなかなか割れない。ダイヤモンド警視もなかなか登場しないのだ。この人の特徴だが、のっけから全く先の読めない展開が続く。いつも思い出すのは『バースへの帰還』の導入部、あの脱獄シーンがもう最高だったのを覚えている。名作『偽のデュー警部』もそんな感じだ。

 いったいこの物語の着地点はどこになるのか。私たちが馴染んでいるシリアルキラーものでは、場面を変えて殺人鬼の姿がちらりちらりと描写されるが(ディーヴァーではそこがミスリーディングになったりする)、ラヴゼイはその手法は使っていない。ミステリ本国の重鎮たる意地だろうか。それにしてもほんとに最後まで殺人鬼の正体がわからなかった。久しぶりにダマされる快感を味わえたのがうれしい。名人芸を堪能させてくれたことに改めて感謝したい。

 また、いつも女性心理の描写に長けたラヴゼイさんだが、今回は女性被害者の赤裸々な秘密の手記を十何ページにもわたって書いている。まさに真骨頂だろう。どうしてこんな女心について詳しく書けるのか、なんかのインタビューで「妻に随時確認してもらってる」みたいなことを話していたが、やはり天賦の才なんだろうなあ。でも女性読者の目にはどう映るのか、興味のあるところ。

 ちなみに原題を "House Sitter" という。



【house sit】
 to take care of someone's house while they are away
 留守の間に誰かの家の世話をすること

 と辞書にあるので、ほぼ「留守番」でよかろう。一通り読み終わって初めて題名の意味がわかるのもなかなか憎い演出だ。










漂う殺人鬼

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