『声の網』(星 新一)

 愛菜センパイに教えてもらった(買っていたのをすっかり忘れていた)星新一のオムニバス的SF(哲学)長編小説。

 ショートショートの名手もたまに長編を書いていた。無味乾燥で含蓄もないその文体から「誰でも書けそう」(←絶対書けるわけないのに)とのそしりもたまに受けたであろう星さんが「オレだって出来るんだよ」と挑んだ意欲作だったのかも。

 1970年初版だから30年前も昔にこんなテーマを扱っていたなんて星さんゴイスー!とマナパイセンがいうのは無理もない。でもコンピューターの反乱、コンピューターが人類を支配する、ニンゲンの出る幕は?…21世紀、AIの時代に沸き起こる議論は実は新しくて古い命題だ。

 今現実化している素晴らしい魔法のような技術やその裏腹の新たな課題は、とっくの昔にSF作家や技術者が思い描いていたことで、彼らのビジョンがありそれを後世のものが目指していたからこそ今の時代にそれらが出来ているとも言えるのだ。なにも驚く事はない驚くけど。

 有名なところでは「2001年宇宙の旅」のHAL。そもそもはコンピューターというか、ロボットという概念が出来た時点でそうしたことは予見され、アシモフはそのへんから「ロボット三原則」を提唱していたのではと思う。

コンピューターは何万、あるいはそれ以上の電話機に対してそれをやる。何万という盗み聞きをやりながら、同時に分類し、同時に検討し、同時に判断する。そして、なにか危険性をおびたにおいをかぎつけると、さらにそれへの調査を進める。いまの場合がそれだっ

 アレクサ~!!((泣))

 情報反乱みたいなことがさかんに書かれているが、今現在からしたらまだのんびりした時代に見える。「声」が出てくるのはいわゆる家電話からのみだ。数十年前の人が頭に描いた未来予想図はあれこれ見たことがあるが、20年後に誰もがケータイを持ち歩く未来は、実はほとんどの人が予想していなかったみたいだ。

 だが、SNSを予感する記述はいくつも見つかる。

目から耳から注入される一方なのだ。しかし、それはどこへ流れ出てゆけばいいのだろう。出口がないと、それは頭のなかにたまり、渦を巻いて押しあい、変調をもたらす。排出口が必要

有益で安全な情報が世にあふれている状態、こうなるとそれらは価値を失い、秘密で無益で不健全な情報のほうが相対的に価値を高めて

 当時星さんが考えていた意図とは違うかも知れないにしても、どれも今見るとドキッとするものばかり。先見の明というかようするに人類はほとんど進歩してないんだよな。

コンピューター。これは時間というものを消してしまう。三年前だろうが一時間前だろうが、その記録の正確さにはなんの差もない

 古典も最新作もフラットに並んで品揃えされる電子書籍やサブスクストリーミング音楽のある今でこそゾッとする指摘だが当時はどんな意図だったんだろうか。

アリは食物を運び、人間は秘密を運ぶ

人間の個人の秘密など、とるにたらないものである。いかにも重大そうに見えるが、ちょっとした暗がりと同じ。照らしてみても、なにもない

 さすがの星さんも集めた情報が商売になって未来の企業が大儲けできるようになるとは思わなかったようだね。

すべてはそれ以上に良くもならないが、それ以上に悪くもならない。人生とはこういうものなのだろうと、彼はそれで満足だった。

 星さんのショートショートに、住人がすでに死んでいるのに彼の世話をするマシーンは相も変わらず動き続ける…というものがあった。それと同じモチーフがこの長編の最後に提示される。

 この小説の結末にカタルシスはない。提示されるのはユートピアでもディストピアでもない。コンピューターVS人間の戦いが勃発するわけでもない。ハリウッドのB級映画じゃないんだよ。スカッとした結論は出てこない。

 物語は「すべてが便利になり平準化された後に人間の存在はどうなるのか? 生きるとは何なのか?」という哲学的命題に帰結する。

コンピューター群が人間を支配しているといえるかもしれない。しかし、コンピューター群をうみだし、このようにしたのは、人間の心によってだともいえる。人間の心の最も忠実なしもべ

 そう、しょせんは人間の業なのだ。


声の網 (角川文庫) - 星 新一
声の網 (角川文庫) - 星 新一

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