『富士山頂』(新田 次郎)

 『八甲田山』で有名な新田次郎さん。山岳小説のイメージが強い人。実は富士山レーダー建設の立役者でもあり、この小説はその体験を元にしたものであろう。いまだに「半沢直樹シリーズ」とかで根強い人気のある「サラリーマンもの」にも通じる、いわゆる「お役所の掟」みたいな組織の軋轢の中で立ち回る難しさみたいなものを描いている。実は現在の民間企業でも大したかわりはない。『八甲田山死の彷徨』もその点で評価され不朽の名作になった。だから企業研修なんかでも教材として利用されるのよ。

 新田次郎さんはお役人と二足わらじの作家だったのね。しかし公務員の副業って OK だったのかな。それに(小説中に出てくるのだが)辞職勧告なんてのもそんな理由でできるんだろうかなんてことが気になってしまった。


 もう古い小説だ。読んでいてふと頭に浮かんできた情景は、(棒読みっぽい)台詞回しやテンポ、場面転換、行間から溢れる世間の雰囲気なんか小津安二郎の映画っぽい感じがした。サラリーマンものだけに当時の映画文法に則ったような流れ。

 これは最近のアメリカの大衆小説がハリウッド映画っぽく見えるのと似たようなものだ。あるいは映画以前の小説では舞台劇を見ているようなものも多かった。小説上では本来気にすべきでもない場面転換の限界を気にして構成されている節を感じる作品もあった。もちろんすべてではないが、時代の色はやはり色濃く反映されるものだ。

オリンピックか、なんだって、あんなばか騒ぎをやっているのだろうっていったような気になる

 舞台は先の東京オリンピック直前日本の省庁だった。令和の時代にそんな話を聞くとまたちょっと別の感慨が湧き上がってくる。











富士山頂 (文春文庫)
文藝春秋
2012-09-20
新田 次郎


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