河合隼雄さん死去

 脳梗塞で療養中の河合隼雄さんが死去された。(もちろん直接ではないが)ほんとうに多くのことを教えていただいたご恩は一生忘れられない。私がしばらく自分を見失っていた時期、『影の現象学』を始めとした数々のご著書を瞠目の思いで読みふけったものだ。とっつきにくいユングの思想をあんなにわかりやすく語れる人はいなかった。その上に日本特有の背景を接ぎ木して、国際的にも通用するご自身のオリジナルな日本文化論を展開されていた。

 長らくあこがれの人だったが、一度だけ間近でお見かけしたことがある。京都市のとあるイベントで公開対談の企画があり、そのパネラーが河合先生と聞き物見遊山で出かけていった。会場で陣取った私の前にふと気づけば「登壇者席」なる一角があり、そこに河合先生がいらしたのだ。当時既に文化庁長官の職を務めておられたが、SPらしき人も見あたらず、悠々と前座でやっていた中学生のブラバン演奏を楽しんでおられた。あの時、ご著書でも持っていたら厚かましくもサインを頂戴できたかも知れなかったのに。思い返すたび口惜しい。
 いよいよご自身の出番となると壇上前の短い階段を軽やかに登っていった元気なお姿が印象的だった。

 病気療養中といっても、倒れてからはほとんど植物人間状態だったと聞く。でもいつかひょっこり目を覚まし、「三途の川っていうのは実際はこうなっていたんだよ」とかタヌキオヤジらしくまた大ウソを披露してもらえるのを心待ちにしていたのだが。せめて無意識の世界を存分に探索され、その神秘の一部でも解き明かされて旅立たれたことと信じたい。ご冥福をお祈りいたします。


未来への記憶〈上〉―自伝の試み

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