少佐の記憶-Memoirs of a major-

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zoom RSS 『観察力を磨く 名画読解』(エイミー E ハーマン)

<<   作成日時 : 2017/05/02 22:34   >>

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 読む前はなんだか専門的なとっつきにくい内容なのではと思っていたが、豈図らんやめちゃわっかりやすく、小難しい美術解説というよりも「すぐあなたの仕事に役に立つビジネススキル」の方に寄った実用書であった。

 海外の実用書は導入部の作り込みがメチャうまい。Kindleの試し読みでちょこっと読んで思わず続きが気になってポチってしまった本は数知れず。この本も、ホテルで廃棄されるせっけんを集める起業家の話から始まる。目のつけどころが違うでしょ?というマクラであった。

 著者の主張がとても歯切れがよくテンポもよいのは、この観察技術を自らセミナーとして米国各地で行っているからだろう。読んでいて楽しい講義を聞いているような気分になる。

知覚の技法は、観察(Assess)、分析(Analyze)、伝達(Articulate)、応用(Adapt)の四つのA≠核としている。

私が求めているのはアート作品を見てどんな気持ちになったかではない。何を見たかだ。

 これらがこの本のキモである。美術解説書としての期待からこの本を手に取った人からしたら、いささかガッカリするかもしれない。全ては事実ベースからの組み立て。名画を見て湧き上がる妄想や情感はひとまず置いてけぼりにされる。というかはっきり否定される。余韻や曖昧さを持ったイマジネーションの世界ではなく、いつどこで誰が何をしているのか、みたいな「正解」を求める観察力が求められる。


 本の中でも早々に紹介されるように、これは名探偵が謎を解くアプローチだ(だから早川書房刊なのだろうか)。シャーロック・ホームズがなぜ難事件を安々と解決していったのか? その鋭い観察眼がゆえである。(ホームズに実在モデルがいたというのはシャーロキアンでない私には初耳だった)

 ミステリーつながりで言えば、ジェフリー・ディーヴァーがキャサリン・ダンス初登場のライムシリーズでネタ本として紹介していたFBI捜査官の著作も文中で出ていた。その前から私の頭に浮かんでいたよ(未読なのにw)。




翻訳も出ている



 そもそもが原題を “Visual Intelligence: Sharpen Your Perception, Change Your Life” という。そう、「インテリジェンス」=諜報活動 の本でもあるのだ。「知覚を鍛え、人生を変えよう」みたいな副題は、まったくこの本の趣旨を正確に表している。

 観察眼を持った者は、みなと同じものを目にしながら、ちがう結論にたどりつくことが出来る。例えばそこにあるべきものがないことに気付くことが出来る。それはいち早く危機を察知する能力に繋がり、人に先んじたり、リスクを回避することが出来るようになる。

 ただこうしたメソッドはビジネスならよいが、絵画鑑賞ではそれまで見過ごしていたものに(自分だけ)気付けるようになるメリット(優越感)と裏腹に、とてもつまらないものになる危険性もある。

 著者のアプローチはいわば鑑定作業に近い。近代(商業)美術の宿命、その絵が本物かどうかでカネが大きく動く話には「想い」もさることながら、正真正銘の「真作」である証が求められる。それが時に芸術的価値と微妙にズレるのは、ついつい忘れがちな話である。

 本来絵画(芸術一般でもいい)を見る楽しみは、「同じ絵を見ても解釈は人それぞれ、バイアスたっぷりでも自分が納得すれば製作者本来の意図と正反対でも一向に構わない」ところにあるのに、ここでの「結論」はバイアスから来るバリエーションを許さない。「犯人の証拠」みたいなものだから。

 目指す到達点は、「正確に客観的に事象を把握する、ものごとをあるがままに受け止めることで自分(判断力)をコントロール出来るようにする」こと。どこかで聞いたな。そうこれはマインドフルネスにも通じるのだ。米人はなんかこの手のハウツーが好きだな、最近こんな本ばっかだと思ったが、おいらがこの手の本を選んで読んでいるのだバイアス。

 私がこの愚ブログで、文章で絵画を表現するのは、言わば文字によるデッサン、模写であり、画家の制作作業を追体験するようなものといつも心掛けている。創造活動の追体験をする事により、自分がまた新たな創造活動を起こせるようになる期待だ。イノベーションとは、天からの啓示ではあるが、発明よりも発見による事が多いはずとの著者の主張には私も賛同する。

 具体的に言えばそれは「そこにないものに気付く」力ではないか。あるべきビジョンを自分が明確に持っているから、欠けているものがよく見えてくるのだ。

 画家は絵を描くにあたり、主題、(絵画の中の)時間、構図、配置、登場人物(人が出てこなければ自然だったり静物だったり)、色の選択、そしてその中から「選択と集中」をして「描かないもの」を決める(のではないかと思う)。これってまさに「ジェットコースターを後ろ向きに走らせた」ビジネスストラテジー(そこにないものに気付くフレームワークはまさにMECE)の組み立てと変わりないのだ。

 人と違う視点を得るには、例えば少し見る角度を変えるだけでもいい。例えばかの有名なダヴィデ像は、展示方法の関係で本来の視点から見られていないという。

画像
観賞者の視線は、局部から顔へ移る。

 著者はダヴィデ像を下から見上げて誰しも思いながらオトナだからまず口にしない事実をあっさり言ってのける、そこ痺れる憧れるぅ! (他にもエッチな表記はあちこちに出て来るw。絵画にリビドーは付き物だ。フロイト的アプローチも意識しているのか。それとも読者サービス?)



 知覚ということでは、この本でも今や誰しも避けて通ることの出来ないスマホやタブレットら電子機器の功罪を論じている。私もずっと考えている事だ。おまけ的にその辺も書いておこう。

携帯型の通信機器を持っていると、気が散るだけでなく、目や耳の代用にしてしまいやすい。

 言いたいことはわかる。私もこんな経験がある。撮影可能な絵画展に行って写真を撮りまくって帰ってくると、はて? 見てた時の記憶が薄いのだ。写真に撮って安心してしまうんだろうな。

(手書きのメモは)自分で考えて要点を抽出しなければならないので、情報が記憶に残りやすいのである。


 身体感覚が大事だと言いたいのだろう。だがそれ言ったらキーボードでも指を動かしているのだから同じことなんだけどな。私はその手の安易な主張には強く反論したい。(欧米こそタイプライターの国じゃなかったか)

 テクノロジーを利用することで補って余りあるメリットも享受できるのだ。まずメモをテキスト情報として入力しておくことで、後工程の時間が段違い。議事録など手書きなんかしていたら、他人とシェアするためにパソコンに打つ二度手間が生じる。いや二度なんてもんじゃない、10倍以上の時間がかかる。

 電子機器でメモを取っている時の一時記憶の定着率は確かに低いのかもしれない。キーボード入力の場合、手書きよりも早く書けるがゆえに無思考状態でも自動筆記出来てしまうのだろうか。後から見直してこんな文章を打ったかなと思うくらい忘れていることもある。

 だが、その後の行動と結果が手書きのメモとはまったく変わってくる。

 記憶の定着には繰り返し反芻するのが鉄則である。テキストデータのメモは後から読み返す時にメモを取った時点では忘れていて後から思い出した記憶を書き足していくことができる。読み返して意味が通じないと思ったらメモの時系列を再構成して自分なりのストーリーを構築するのも日常茶飯事だ。これが一時記憶を長期記憶に向かわせる秘訣である。「自分で考えて要点を抽出」はキカイを使っても出来るじゃないか。



 例によってこの本もKindleで読んだ。参考図版は豊富に掲載されてるが、写真が白黒になるKindleだと著者の解説がさっぱりわからん。ただハードカバーでも大きさは 18.6 x 13 x 2.4 cm らしいので、色が付いててもそれじゃ小さいよね。iPad Pro の方がむしろ紙の本よりいいのかも。











観察力を磨く 名画読解 (早川書房)
早川書房
2016-10-15
エイミー E ハーマン


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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
おもしろそうな本ですね。

>アート作品を見てどんな気持ちになったかではない。何を見たかだ。名画を見て湧き上がる妄想や情感は二の次・・・

私もこっちよりの見方をしているかな・・・と思います。感覚よりも現実。曜変天目茶碗がそうでした。

http://korokoroblog.hatenablog.com/entry/chanoyu-youhentenmoku-chawan

科学者の観察眼を借りた上での観察でしたが・・・

>絵画鑑賞ではそれまで見過ごしていたものに(自分だけ)気付けるようになるメリット(優越感)と裏腹に、とてもつまらないものになる危険性もある。

私は、こんなこと見つけたぞ〜 というちょっとした優越感。しかし、それをつまらないと思う人もいるだろうな・・・ということもわかります。でも、自分は、今後もこういう見方をつまらないと思うことはないだろうな・・・・と。

その人の価値観・・・と言ってしまえば、それまでなのですが、思考や嗜好、志向の源泉がどこにあるかの差なのかなという部分のおもしろさを感じる今日この頃でした。
コロコロ
2017/05/03 17:37
コロコロさん

> 私もこっちよりの見方をしているかな・・・と思います。感覚よりも現実。

まあそれはどうでしょうね笑
ただ、どうやったって、人は感情やバイアスから逃れることなんてできないんですよ。だからこそ事実ベースで客観的に物事を捉える技術をとことん追求するのです。
それは著者も良く分かっていらっしゃると思います。この本の内容だって「あー、やっぱり女性だな」と思うところがたくさんありましたし。←これも私のバイアス
少佐
2017/05/03 21:46

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