少佐の記憶-Memoirs of a major-

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zoom RSS 「巨匠ピカソ 魂のポートレート」展(サントリー美術館)

<<   作成日時 : 2008/12/13 21:09   >>

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 国立新美術館の「ピカソ展」は質量ともに膨大なもので、それだけで十分おなかいっぱいになってしまい、続けていこうかと思っていた同時開催のサントリー美術館はまた後日とした。後回しにすると熱が冷めるのはいつものこと、それに向こうはポートレート中心の数的にもこぢんまりとした展示らしく、もういいかなと考え始めていた。

 ところがどっこい、行ってみると今年見たどの美術展よりも超弩級の衝撃を食らってしまった。人としてのピカソはスキャンダルが絶えなかった。次々に愛人を取り替え続け、泣かされた女性は数知れぬ人非人な振る舞い。だが、彼が最後にたどり着いた境地はそんな俗世界の評価軸を無意味にするほどの高みだった。人はここまで神に近づけるのだろうか。大袈裟ではなく鳥肌が立った。いや障気に当てられたとでもいうのだろうか。体中に悪寒が走った。

 クリスマスの東京ミッドタウン。この中にあるサントリー美術館には初めて来た。思えば最初に国立新美術館を探していたときにここのことか?勘違いしたところだ。


<<カザジェマスの死>>
 最初に飾られるのがこの親友の死の床。蝋燭の灯火はルオーのようなステンドグラス調に描かれている。パイプオルガンの音が響いてきそうな荘厳さ。彼の死に衝撃を受けピカソは「青の時代」に突入したくらいの話は私も知っていたが、添え書きに寄れば恋愛沙汰もつれの拳銃自殺だったのか。

更に、帰宅後、たまたま持っていた "How to read a modern painting" (Jon Thompson) でこんな記載も見つけた。

Casagemas fell in love with a model named Germaine, found himself to be sexually impotent, and shot himself.

 かなりややこしい話だったのだな。


<<自画像>>
 ポスターにもなった1901年の自画像。全体を覆う色は青というより深緑に見えた。「青」の時代といっても、入念に色の混合と選択をしてたのではないか(プロなら当たり前か)。少し離れて1906年に描かれた自画像も見ることが出来る。こちらも無造作にハケでべっちょり塗りたくったような乱雑さにも関わらず、何となく緻密な計算を感じ取れる。少なくとも二次元の絵に彫刻の三次元的な効果を入れようとしているのは多くの人が指摘するところ。

<<ピエロに分するパウロ>>
 白装束にとんがり帽子を被ったつぶらな瞳とピンクがかったふっくらした頬。もうパパとしての愛情が溢れてる作品。どことなく表情にローランサン絵画の面影があるような気もする。


 このあたりまでは予想の範囲で、ピカソの見方がそう変わるところもなかった。ところが「§4:ミノタウロスと牝牛」から様相が変わってくる。

<<ミノタウロス>>
 紙に木炭で描いたデッサン画。こんな怖いミノタウロスは初めてだ。ピカソは内面を自画像に抽出する。明らかにこのミノタウロスは自分の中に飼っている、抑えようとしても鎌首をもたげてしまう獰猛な魔物。誰しもそんな狂気をひっそりと心に抱えているものだが、ことが天才に関わる話となればなおのこと、その抗し難い力に苦しめられる日常は凡人の理解を超えたものだったろう。

<<ドラとミノタウロス>>
 これも紙に、それも基本的に色鉛筆で描かれた作品。そんな小学生みたいな画材でこんなゴヤみたいな迫力のある画面を生み出せてしまうんだから…。開いた口がふさがらなかった。

<<牧神と馬と鳥>>
 これは墨絵。ゆえに一気呵成に描かれたはず。なんの迷いもない力強い筆遣いはもう北斎並み。


 そして「§5:戦中から戦後、そして晩年」のセクションはもう、絵を前にして凍り付く「ピカソ・ザ・ワールド」であった。ポルナレフの気持ちがとてもよくワカタ。

 あ…ありのまま、今起こった事を話すぜ! 『オレは絵を見ようと思ったらいつのまにかピカソのじじいに乗り移られていた』 な… 何を言ってるのかわからねーと思うが、オレも何をされたのかわからなかった… 頭がどうにかなりそうだった… テーマだとか超テクニックだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえもっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…


<<子供と鳩>> <<イセエビを持つ少年>>
 この頃のピカソを「灰色の時代」と呼ぶ研究者もいるらしい。「泣く女」などで見せた鮮やかな色彩はどこにもない。表情は無邪気なのに見ていてイヤな気分になる子供。子供ではないのだろう、その中身は老成したピカソなのだから。人は老いて子供帰りするというからこれも自然な姿なのだ(それにしては長年溜まった澱を見せられてる気分だが)。ただし、ピカソの場合、この境地に至ってからまだ30年も生き続け、なお進化を続けていた。どうなってんだよ?

<<接吻>>
 とてもイヤらしい作品。じいさんがおねえさんと熱烈なチューをぶちかましている。読んだことはないけれど谷崎潤一郎的世界なのかな。「不能老人のポルノ妄想」と切り捨てる評論家も少なくないらしい。女性は(捨てた)二番目の妻らしいし、「あのおねーちゃんよかったなー。別れなきゃよかった」とかサイテーな回想して制作したものではあるのだろう。それはさておき、図太い線の一本一本にピカソの官能が込められているかのような魔の表現力である。

<<若い画家>>
 この企画展で最後に飾られた亡くなる前年の作品。やはり長命だった北斎は絶筆に自分を龍の姿になぞらえた。ピカソは精霊のような自分を描いた。一筆でさらさらっと仕上げたような雰囲気。とんがり帽子に絵筆を持ち、こちらを見つめている。その空洞のような目は何も映していない。全てを吸い込むブラックホールのように、もはやこの世ではないところに繋がっているような。










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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
十二分に満足されたご様子・・羨ましいです(T_T)

ピカソのミノタウロスを検索してたら、こんな1文を見つけました。
「父は偉大な芸術家だが、わたしの夫だったらとっくに絞め殺していた」
これは昔TVに出演したピカソの娘さんが、真顔で話されたのだとか・・(-_-)
おのこま
2008/12/16 16:20
むむ、察するところお見逃しになったとか? さすれば、改装なったパリのピカソ美術館へ飛べ〜!♪
少佐
2008/12/16 21:45
パリですか…
出張先の方がゆっくり時間が取れるかも(笑)
来年は何か用事をでっち上げてみよう♪
彩季堂
2008/12/18 06:56
おおパリよ〜♪ それではピカソ美術館のみならず、ルーブル、オルセーその他(何があるのか知らんけど)レポート楽しみにしてますねー(笑)。
少佐
2008/12/19 22:29

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