少佐の記憶-Memoirs of a major-

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zoom RSS 『ウォッチメイカー』(ジェフリー・ディーヴァー)

<<   作成日時 : 2008/12/31 14:52   >>

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 ディーヴァーについてこのブログに書き込むのはどうも初めてのようだ。前回『魔術師(イリュージョニスト)』を読んでいるはずなのだが、ブログを書き出す前のことだった。そんなにライム達とご無沙汰だったか。『魔術師』は、とにかく楽しかったけど、ちょっと異常作品だった。どんでん返しに次ぐどんでん返しがあまりに続くので読了してほとほと疲れ果てた。あそこまでツイストされるとさすがに読者をバカにしてるのかとさえ思う。今作も相変わらず予想を裏切る展開の連続だが、その点は大いに改善されている。これまでの最高傑作といってもよかろう。

 当初読み始めは、今回はモジュラー型ミステリー(一つの長編で複数の事件が平行して起きる)で行くのか?と思った。複数の線、つまり「ウォッチメイカー事件」、「アメリアの事件(刑事汚職事件)」、「ライムとアメリアの愛の行方」などが平行して語られていく。そして更にキャサリン・ダンスのめざましい活躍が加わる。新キャラクターである彼女の登場は大成功。今年の「このミス」で上位に選出された『スリーピング・ドール』で別シリーズ(?)にスピンアウトさせたのも十分納得のいく話だ(早く読まなきゃ)。




 しかし、複数の線は次第に、より巨大な大仕掛けに組み上がっていく。これが真相だったのか…と思っている内にまた次々と"真の真相"が暴かれていくこの醍醐味。そんなバカなと思いつつ、計画があまりに"緻密"であること自体の説得材料もきちんと提示されているので、こちらとしては全面的に白旗を揚げざるを得ない。こうした構成は大出世作『ボーン・コレクター』と大枠では似通っているものの、よりスケールアップしている。

 当初から『羊たちの沈黙』と設定が似ていると言われたライムシリーズ。今作でも、アメリア・サックスの成長と苦難(内部捜査の人間関係の軋轢に巻き込まれる)を描くあたりはやはり羊と似た展開を見せる。サックスは翻弄され人生の岐路に立たされる。ディーヴァーは稀代のパズラーだ。クリスティというよりは21世紀のエラリー・クイーン。人によってはそうした「人間ドラマ」を挟み込むのは紙面の無駄と感じる人もいるかも知れない。私も本来そういう雑音を嫌うたちだが、ディーヴァーに関しては多少肩を持ってやりたい。

 私がディーヴァーに好意を寄せるのは、作品に「情」があるところ。彼のミスリーディングは人を緊張から安堵の方向に持って行く。今作でも殺人を最小限に抑える辺り、−ミステリーは人殺してなんぼの世界なのに−お話の中の「殺され役」の命でさえ大事にしている意図を感じる。

 ディーヴァーという人、著者近影から察するに(爆)、いわゆる運動音痴で本ばかり読んで空想癖を持った少年時代を過ごしてたんじゃないか。事実、短編集 "Twisted"(邦題『クリスマス・プレゼント』) の前書きでそんなことが書かれている。よく転べば芸術家タイプの、そうした傾向の子は一歩間違えると性格が歪み、悪いのはすべて周りのせいにして歪んだ道へひた走ったりするものだが、ディーヴァーは「コンプレックスの発散という執筆方法を比較的早い時点で捨て」それを乗り越えたようだ。(ディーヴァーの作品に現れる冷徹な犯罪者は、「そうなったかもしれない自分」がどこかに投影されているのではとも思っている。)




 更に、「苦く皮肉に満ちたエンディングにがっかりさせられるなどという経験は、ぼくの読者には絶対にさせたくない」。シリーズものの良さはレギュラー登場人物達の成長であり、「また会いたい」と思わせるような人間的魅力だと考えている。人の心を持たない、むくつけき悪魔を敵側に設定する一方、善きサマリア人集団のようなライムチームが必ず勝利を収める勧善懲悪のパターンを続けるのは、そうした職人気質のなせる業のようだ。『ウォッチメイカー』ラストの、肩すかしを食らったようにも感じるのんびりした情景も私にとっては古時計がチクタクチクタク静かに時を刻むように和やかな気分にさせてくれた大事なシーンであり、最後の "コンプリケーション" として確信犯的にディーヴァーが置いたのは間違いない。

 このシリーズがどこまで続くのか誰もわからない。ライムとサックスの愛の決着をどう付けるのか(付けちゃうのか?)が一番楽しみなところ。


 ところで、作中出てきた「デルフォイ機構」にはとても興味を惹かれたが、ググっても出てこないのでこれはディーヴァーによる架空の時計なんだろうか? 実在するの??










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コメント(5件)

内 容 ニックネーム/日時
ボーンコレクターの人ですね。
腰を据えて落ち着いて読まないとこんがらがりそう・・・
ミステリーの書評で「どんでん返しがある」ってのは禁句だと思うんですが、「どんでん返しがある」ってのが当たり前の現状では、もう解禁でしょうね。たしかにどんな内容なのかは、全くわかりませんでした(笑)

今年は、いろいろな本を紹介して頂き有り難うございました。(でも、出費もかさみましたゾ)
トイレの写真も送ってもらったし(爆)
今後ともよろしくお願いします。

彩季堂
2008/12/31 18:11
おお、年の瀬にコメントありがとうございます。ご無事で帰省されたようで。
今年はお近づきになれてこちらこそ感謝しております。かなりマニアックな記事にでも的確なコメントを寄せていただき、一体どういう人なんだろうと(笑)内心呆れていたのですが、まあ謎は謎のままで置きましょうか。かくいう私もかなり謎な人だろうし(笑)
なかなか静岡は用事がないので、ブログで拝見するたくさんのグルメパークに足を運べず残念に思っております。っておいしんぼブログじゃなかったですね。来年はまた新たな展開を心待ちにしております。どうぞ良いお年を&来年もよろしくお願いいたします。今後は更に値の張る本をご紹介しようかな(爆)。
少佐
2008/12/31 19:28
お、読みましたね。
この作品は凄いですよね。個人的には『ボーンコレクター』以来の衝撃でした。

今年はずいぶん絵画系に寄ってしまったようですが、ぜひ例のコントも復活してほしいものです(笑)。期待してます!
sugata
2008/12/31 20:38
いや、同感です。ディーヴァー、まだまだ余力ありそうですよね。
もともとミステリー専門ではないのですが、今年は特に軌道修正が入りました。来年もどこへ向かうかまったく予測の出来ないアホブログですが、よろしくお願いします。
で、そうですか、コントですか。期待されると、調子に乗るタチなんで…(笑)。
少佐
2008/12/31 21:25
デルフォイ機構は恐らく「アンティキティラ島の機械」がモデルです(о´∀`о)
夜羽
2015/10/01 05:00

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