少佐の記憶-Memoirs of a major-

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zoom RSS 『月と10セント』(北 杜夫)

<<   作成日時 : 2007/11/18 16:43   >>

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 一度だけ北杜夫さんを間近で見たことがある。京王線沿線に世田谷文学館という場所がある。そこで作家の講演会がたまに行われるのだが、数年前そこに北さんが招かれたのだ。もうぼちぼち北さんを知る人も少なくなってきただろうとそれほどの混雑を予想しておらず、早めに着いたつもりが整理券は早や終了していた。企画始まって以来の盛況ぶりだという。ただ立ち見は自由ということでご尊顔を拝することはなんとか出来た次第。

 会場に北さんが現れると、まるで生き神様を迎えたような雰囲気が会場を包み込んだ。昔から若白髪でいらしたとは思うが、見事な銀髪で実年齢以上の高齢に見えた。ゆっくり静かに演台に着かれ、一息ついて「腰が痛いので座ったまま失礼します」とのお断り。おじいちゃんだいじょうぶかいなという空気が漂ったが、その後のお話の内容は抱腹絶倒。エッセイの愛読者ならお馴染みのもの(歴史を語る講演会でジンギスカンの話したらそれまで熱心にノートを取っていたおじさんがパターン!とページを閉じたとか)ばかりだったが終始会場は温かい笑いに包まれた。最後、質疑にも応えてくれ、「『幽霊』の三部作は『木精』のあとどうなるんですか?」の質問に「もう書く気力がないのでどうぞあなたが書いて下さい」と相変わらずのマンボウ節だった。

 この『月と10セント』を読んだのはまだ中学生の頃。やたら読みにくいエッセイだったのを記憶している。今読み返してもまだ苦労する(ただほとんどの箇所を覚えているのは自分でもすごいと思う)。書き出しは子供の頃の長々とした思い出話から始まるや、実はこのエッセイは朝日新聞の日曜版に連載される、アポロ計画見学のレポートだということがわかる。そもそもは米国の国務省から招待されて渡米したらしい。ようやく月レポートが始まるのかと思いきや、途中でまた幼少の思い出話、帰国後やまた別の旅行のエピソードやらが混じりだし、しかもちょっと妄想入ってたりするので、筋道がさっぱり見えてこない。北氏の躁鬱病は商売上の演技ではないかというまことしやかな噂もあったが、やはりまともな精神状態ではなかったのではと察する。

 まあとんちんかんなアメリカ滞在記。"月乞食"の発想もまったくついて行けない。だがそこはさすが小説家、アメリカ滞在中のエピソードは後のおとなのための童話「さびしいシリーズ」特に『さびしい乞食』に生かされている。


(残念ながら『さびしい乞食』と『さびしい姫君』は現在入手困難みたい)

 読みにくいのはそれだけではないようだ。推敲でワープロを用いない文章は本当に新鮮に映る。書かれた時間と読む時間は比例するんだろうか? ワープロで、しゃべるがごとくさらさらと書いた文章はやはりさらさらと読めてしまう。しかしカルい。最近ブログだメルマガだで、素人の文章を読み過ぎているのは気になっていた(あ、知り合いの分はまた別ですよ)。しかも売られている本でも最近じゃ似たようなレベルときている。せっかく共有する時代の記憶を持つ先人の知恵にはもっと触れなければならないと反省するよい機会になった。

 やはり打ち上げ風景の描写がこのエッセイ中の白眉。インターネットはおろかFAXもない時代、その場で手書きした原稿を国際電話で大声張り上げ読んで伝える様子は隔世の感。ただところどころちりばめられた北さんの文明批評は現在でも十分に通用するところが多い。まさに世界中が月に憑かれたあの宇宙開発競争は何だったのだろう。月の次は火星か!? とも騒がれたが、宇宙旅行計画は今やほとんど顧みられることはない(宇宙ステーション構想はあるけれど)。

 「月よりも地上を!」の訴えには私も同意せざるを得ない。しかし初めて地球外からその姿を目の当たりにして、己のちっぽけさを知りこれからは国家規模でなく地球規模で考えていかねばらぬと人類が気づいたことは大いに意義あることだった。まあその後あまりそれを生かしているとも思えないが。月着陸は嘘だったという都市伝説も未だにあるし(笑)

 この本はすでに絶版だが、中古書店などではまだ容易に入手できると思う。北さんは確か、ビートルズの日本公演も見に行ったはず(あまりお気に召さなかったようだが)。まだそれほど一般的でなかった海外旅行に頻繁に出かけ(本人は出不精というが)、あちこちのルポを手がけた。当時最先端の知識人の一人の言葉、改めて触れてみるのもよいだろう。

と思ったらKindle化されてた! 電子書籍バンザイ!!






アポロって本当に月に行ったの? (朝日文庫)
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